番外編 はむはむヘヴン 月蝕編(中啓ver.)

  暗い森の中を俺は中嶋さんハムと家路についてた。いつもは俺がその日にあったことを色々話して中嶋さんハムが聞いてることが多いけど、今はとてもそんな気分にはなれなかった。だって、今日は月蝕だから・・・
  俺は七条さんハムの言葉を思い出して小さく震えた。
  『・・・昔のハムは月蝕は良くないことの前触れだと考えていたんですよ、伊藤君ハム・・・』
  もし、それが本当なら、もう俺達は一緒にいられないかもしれない。きっとネズミと間違われてカラスに襲われるんだ。絶対、そうだ。俺、そんな悲劇のハムの噂を聞いたことがある・・・
  「・・・っ・・・」
  悲しくなってきて俺は中嶋さんハムの毛を掴んで立ち止まった。すると、中嶋さんハムが静かに言った。
  「なぜ、泣く?」
  「・・・っ・・・だっ、て」
  クシクシと顔を擦ったけど、知らない内に零れていた涙は止まらなくて・・・
  「だって、俺・・・運が良い、から・・・」
  「・・・?」
  「でも、中嶋さんハムは・・・きっとカラスに・・・っ・・・食べら、れ・・・っ・・・」
  堪え切れなくなって俺は中嶋さんハムにキュッとしがみついた。そっと心の中で祈る。俺の運を全部あげるから、お月様、どうか中嶋さんハムに手を出さないで・・・!
  一度、悪い方へ考え始めると、俺の気持ちはどんどん暗く沈んでいった。ポロポロと泣く俺を見て、中嶋さんハムが短く嘆息した。
  「どうせまたつまらない話を聞いたのだろう。月蝕は不吉の前触れとか、な」
  「・・・っ・・・」
  「ああ、丁度良い時間だな。来い、啓太ハム、月蝕を見せてやる」
  「や、やだっ・・・!」
  俺は中嶋さんハムの腕の中で叫んだ。すると、中嶋さんハムはふわっと俺を抱き上げた。
  「な、中嶋さんハム・・・!」
  「煩い。少し大人しくしていろ」
  中嶋さんハムは森が開けてる場所までテチテチと歩き出した。そうして人の造った道路の向こうに海が見える場所まで来て、漸く俺を下ろした。恐る恐る広い空を見上げると、蜂蜜色の満月が浮かんでる。あれが中嶋さんハムを連れてっちゃうんだ・・・
  「・・・っ・・・・」  
  涙に景色が滲んでく。俺は怖くて、悲しくて・・・中嶋さんハムの胸に顔を埋めた。
  「・・・俺、もっと良い子になります。だから、どこにも行かないで、中嶋さんハム・・・」
  「俺がお前を置いてどこかへ行くと思うか?」
  中嶋さんハムが優しく俺の毛を撫でた。俺は大きく首を振った。でも、中嶋さんハムは格好良いから・・・カラスに食べられなくても、お月様に取られちゃうかもしれない・・・
  そのとき、中嶋さんハムが小さな声で呟いた。
  「・・・まあ、お前の方が俺を置いていくかもしれないがな」
  「・・・!」
  ハッと俺は顔を上げた。
  「そんなことありません!俺が中嶋さんハムを置いてくなんて・・・!」
  「なら、俺達が離れることはあり得ない。そうだろう、啓太ハム?」
  「・・・中嶋さんハム・・・」
  嬉しくて俺は胸が一杯になった。それって・・・俺さえ離れなければ、中嶋さんハムはいつまでも一緒にいてくれるってことだから・・・
  「あっ、中嶋さんハム!見て下さい、月が・・・!」
  「ああ、始まったな」
  俺達の頭上で月が静かに欠け始めた。その妖しく神秘的な光景に俺は言葉を失った。
  「怖いか・・・?」
  中嶋さんハムが尋ねた。俺は小さく首を振った。確かに今のお月様は少し怖いけど・・・でも・・・
  「凄く綺麗です・・・」
  そうか、と俺は気がついた。こんなにお月様が綺麗だから、きっと昔のハムは好きなハムの心を取られちゃうかもって心配したんだ。あっ、まさか中嶋さんハムも・・・!
  俺は慌てて中嶋さんハムの腕を引っ張った。
  「中嶋さんハム、そんなにお月様ばっかり見ないで下さい」
  「ふっ・・・先刻まで泣いていたと思ったら、今度は嫉妬か。忙しい奴だな」
  「だって・・・」
  俺はプウッと頬を膨らませた。中嶋さんハムが小さく口の端を上げた。
  「安心しろ。移り気な月に興味はない。ここにはもっと面白いものがあるからな」
  「・・・?」
  その意味がわからない俺を中嶋さんハムが熱い瞳で見つめてた・・・俺にだけ見せる、あの艶っぽい色彩を秘めて。俺は頬や耳が熱くなってくるのを感じて、もじもじと身を捩った。すると、中嶋さんハムが低い声で囁いた。
  「啓太ハム・・・他に言いたいことはないのか?」
  「いえ・・・あの・・・」
  恥ずかしかったけど、俺は勇気を振り絞った。これが中嶋さんハムだから・・・
  「キス・・・して下さい・・・」
  「ああ、良いだろう」
  すっと中嶋さんハムが俺の顎を取った。それから後は俺達だけの秘密の時間・・・♪ 

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